【読書メモ】できる研究者の論文生産術

できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか 1 の読書メモ.著者は心理学者であり,本書はタイトルのとおり論文執筆の方法について指南したものである.みのんさんのツイート に触発されて読書を決意.文章執筆の心構えを知ることを目的に本書を読み進めることにした2

所感

筆者の主張は以下に集約されている.とても明快.

書く時間はその都度「見つける」のではなく,あらかじめ「割りふって」おこう.文章を量産する人たちは,スケジュールを立て,きちんと守っている.それだけの話だ.(P.14 より)

本書籍は,上記の主張について,心理学的知見を交えながら多角的に,繰り返し論じている. 継続は力なり3,という非常にシンプルな主張であるが,そのためのソリューションが時間を「割り振る」ことであることが自分にとって目から鱗であった.本文中にもあったが,確かに授業時間はあらかじめ確保4されており,授業の間,(内職しない限り)授業内容に集中している.4月の頭を目処に,1日1時間で良いので文章執筆の時間を割り当てよう5と考えた次第である.

また,序論の書き方(P.101〜103)の部分が非常に参考になった.序論は大きく分けて以下の3段階に分けられるとのこと.

  • 第1部分:概観 研究のきっかけとなった一般的な問題,疑問,理論について下記,読者を問題に誘う.
  • 第2部分:序論の本体 問題に関連した理論いついて説明し,過去の研究のレビューを行い,研究のきっかけとなった部分についてより詳細に論じる.
  • 第3部分:本研究の貢献(contribution) 当該研究がいかにしてその問題を解決するのかを明瞭に述べる.

この書き方は非常に汎用的であり,是非真似したいと感じた.おそらく研究に限らずお仕事の報告書を作成する上でも参考になる.例として,新製品のための技術開発の報告書を作成する際に応用すると,以下のようにまとめられそう6

  • 第1部分 サービス S を実現するために,機能 X を有する製品 P の開発が進められている.
  • 第2部分 機能 X について,3年前リリースされた製品 O では方式 F を適用し実現した実績がある.しかし,製品 P では制約(例:サイズ・コスト)のため F をそのまま適用することができない(OR そのまま適用しても性能を満足しない).
  • 第3部分 本報告では方式 F について〇〇の制約下でも対応可能な N の概念を導入し,新方式 M を提案する.M の適用により製品 P の制約条件下機能 X を実現する上満足する評価結果が得られたので報告する.

引用(その他気になった部分)

書くという作業は,文ではなく段落だ.(P.93 より)

単純に確かにな,と思った.似ているものとして,プレゼンテーションを作成する作業は文言というよりも1スライドを最小単位として考える.

レビュー論文は,ミステリー小説とは違う.よいレビュー論文は,1ページめで犯人がわかる(P.129 より)

個人的に印象に残った部分.端的,且つ本質を衝いた表現であると思う.

アウトライン(構成・概略)の作成は,執筆作業そのものであって,「執筆本番」のための前奏曲ではない.(P.98 より)

お仕事している今であるからこそ肌感覚で理解できるようになった文章7.どうやら文章には,実際の経験を通して始めて目に入ったり納得したりするものがあるらしい.

以上

  1. ポール・J・シルヴィア, “できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか, ” 講談社,2015.

  2. 遅筆である部分を少しでも解消できたら,という思いで読みました.

  3. 個人的な経験に還元すると,スポーツチャンバラでは大学生時代毎日30分間(意地で)練習時間を決まった時間に確保していた.1回の量は大したことなかった(し,練習そのものはそれほどしんどくない)のであるが,結果として周りと比べてある程度高い景色を見ることができた.

  4. 大学生は半年に1度,履修登録で自らの時間の割り振り方を決めるが,それ以降(例:社会人のお仕事)は,もっと短いスパンで履修登録していると考えると良いのかもしれない.その中で著者の主張は,喩えて言うなれば(どんなスパンであれ)文章作成という講義は通年で受講しなさいということに相当する.

  5. 理想は2時間であるが,まずは小さい目標からである.また自分はお昼を過ぎると集中力が途切れるので,午前中に時間を確保すると良いのかもしれない.

  6. 単なるインプットに終わらず,別状況に適用するアウトプットに繋げられているので,自分の読書スキルは少し向上しているのかもしれない.

  7. アウトラインがブレると永遠に資料作成が終了しない.なお,自分は最初に資料のサマリを作成し,確認してもらっている.