魔法の世紀 1 の読書メモ.著者は自身をメディアアーティストと称し,波動現象を用いたメディア装置(音場を利用した Pixie Dust,電磁場を利用した Fairy Lights in Femtoseconds 等)を研究開発を専門としている.電磁波動現象に興味を持つ身として,著者はどのようなモチベーションとして波動現象を取り扱っているのか気になったため読むことにした.
所感
実世界志向インターフェース(Mark Weiser 提唱の calm technology)を実現するにあたって,background で作用している「場」の概念を持ち込んだため波動現象を取り扱っている,という印象を受けた.これらの「場」は計算機で制御することを前提としており,著者は「計算機場」(computational field)と称している.イメージは著者の博士論文2 fig1.1 (下図)を見るとある程度掴むことができる.
また,当該書籍の第一章で Ivan Sutherland(Alan Key)を中心に著者の専門分野の歴史がまとまっている.そのためかその後の著者の主張がスッと入ってきた気がする.自らの活動の位置付けを明確にするにあたって,主要な人物/出来事を押さえるのは大切でありその意味で歴史を学ぶのは重要であると読んでしみじみ感じた次第.
引用(気になった部分)
古くからあるにもかかわらず,量産コストやフリーハンドでの描きやすさなどで,現在も使われ続けている紙のようなメディアを見ると,メディアは自由度が高い限りにおいては生き残っていくということもよくわかります.(P.157 より)
電磁波も,時間・周波数等で分割できる自由度の高さからメディア(媒体)として生き残っていくんだろうな,きっと.
CD に生身の人間の魅力が吹き込まれていないのは,デジタルの問題ではなくて,コストをかけずに大量生産したいという資本主義の問題にすぎません.実際のところ,20 世紀に我々の周囲に生まれた複製装置は,どれも人間の感覚器の解像度を基準に作られています.(P. 172 より)
興味深かったので引用.以下は雑感(まとまっていないのはご愛敬).
- 著者は人間の意思を介することなく,物理法則からメディア装置を作りたいという意図がある(のではないか).
- レコードが CD と比べてある種の人間味を再現しているのは,量子化の際にある意味切り捨てられるノイズも含めて情報を再現しているから,というのが理由になったりしないのであろうか.
- デジタルの概念,実はアナログなもの(それこそ波動現象の共鳴現象とか)から生じるから不思議だよなぁ.
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落合陽一, “魔法の世紀, ” PLANETS,2015.↩
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Yoichi Ochiai, “Graphics by Computational Acoustic Field,” Thesis or Dissertation, University of Tokyo, 2015. https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/index.php?action=repository_view_main_item_detail&item_id=47733&item_no=1&page_id=28&block_id=31 よりダウンロード可能.↩