【スポーツチャンバラ】練習を構成する際の考え方

これは,練習の成果を試合で使用・応用できるようにするためのスポーツチャンバラの練習構成方法について記したものである.2019 年のお盆に後輩から「合宿の練習メニューをどうするべきか悩んでいる」という話に自分なりの回答を示すため作成した.ただし本文は合宿時に限らず,普段の練習構成を考える際の一助になるのではないかと考えている.

基本的な考え方

練習を構成するにあたって,単純な動作(技術)を「こなす」だけでは意味がないと筆者は考えている.何故ならば,試合の際に使うタイミングが分からないからである.加えて,「こなす」だけでは他の動作(技術)に応用するキッカケが掴めず,動作(技術)のバリエーションが増加しないため非効率である. 筆者が考えるに,動作(技術)を練習する際は,動作(技術)習得の目的を定めた上で,ケーススタディを通して目的を達成するよう練習メニューを2段階・3段階で構成するべきである.習得の目的を定めることで試合の際に使うタイミングを明確にすることができる.また,ケーススタディで実際に使えるように体得することができる.練習メニューの構成は以下に示すように「基本/応用/対策」の3段構成にすると,該当の動作(技術)について理解を深められ,応用のキッカケとなるケーススタディが練習可能であるためオススメである.

  1. 基本:対象の動作(技術)の概要を理解し,動作(技術)そのものをまずはやってみる.従来の「こなす」段階に相当.まずは動作(技術)そのものができるようになることが目的.
  2. 応用:対象の動作(技術)を他の動作(技術)に組み込んでやってみる(ケーススタディ).ケーススタディを通して,対象動作を組み込む方法を体感し,試合で対象の動作(技術)を組み込む方法を考えるキッカケを作るのが目的.
  3. 対策:対象の動作(技術)に対処するためのケーススタディを実施する.対象の動作(技術)に対処できるようになるだけではなく,対象の動作(技術)の弱点を知ることを通じて,対象の動作(技術)の理解を深め,試合で適切なタイミングで組み込めるようになることが目的.

練習メニューの例としては以下が挙げられる.本資料はその中でも「飛び込み打ちの概要と使い方」及び「足打ちに対する回避行動について」の構成例を以降のセクションで示す.

<攻撃動作(技術)>

  • 飛び込み打ちの概要と使い方(次のセクションにて構成例として記述)

  • 掬い打ちの概要と使い方(<背景>練習ではやるものの,当てるタイミングが中々無い掬い打ち.どのように当てる状況を作り出せば良いのだろうか)

  • 足打ちの概要と使い方(<背景>基本打ちの中で最も出の遅い足打ちを当てられるタイミングはどこにあるのか.どのように組み込めば出の遅さをカバー可能であるのか)

  • 連打にはどのようなものがあるか

  • フェイント打ちの例と対策

<防御動作(技術)>

  • 足打ちに対する回避行動について(次の次のセクションにて構成例として記述)

  • かわす方法(ドッヂング)にはどのようなものがあるか

  • 四方囲いを実戦向けにアレンジしてみよう

例その1:飛び込み打ちの概要と使い方

<目的>飛び込み打ちの性質を知り,試合に組み込めるようになろう.

1. 基本:飛び込み打ちとは

飛び込み打ちとは,筆者は以下(もしくはそれに準ずるもの)であると考えている.

小さい予備動作でリーチを得るため,逆足で踏み切って打つ動作技術のこと

リーチの割に予備動作が小さく,防ぐことが難しい特長がある.一方で打った後は相手に対して背を向ける形になりやすいため隙が大きい.打ち終わった後はすぐに逃げる.場外に出ることも戦術的に有効である(裏を返せば,一度場外に出ていると使いづらい技でもある). 飛び込み打ちは以下に示すように,扇打ち・掬い打ちで性能が異なる.

  • 扇打ち:出が早いため,連携に組み込みやすい.また割り込みにも使える.

  • 掬い打ち:リーチが稼ぎやすい.また相手の反応によって起動が変えられるので当てやすい.

飛び込み打ちは胴より上を狙うことが基本である.しかし長剣であれば下段を狙うことも可能である. 練習する際は他の人に押してもらうと勢いのつけ方が分かりやすい.

<やってみよう> まずは飛び込み打ちをやってみよう(扇打ち・掬い打ち).他の人に押してもらって感覚を掴むべし.

2. 応用:飛び込み打ちを狙うタイミング

飛び込み打ちは相手が居付いた場合に狙うのが基本である.相手の何気ない牽制(小手打ち・フェイント)の合間が狙い目.また,フェイント等で強制的に相手を居付かせる手段もある.以下に飛び込み打ちを狙うタイミングを示す.

  • 相手の牽制の合間:何気ない牽制やフェイントが狙い目.

  • 相手が防御した時:足打ちフェイントで防御・足退きの回避行動を誘発してから飛び込む.胴が狙い目.

  • その他:長剣では左手で目くらまししてびっくりさせた後に飛び込み足を狙うという手もある.

<やってみよう> 足打ちフェイント→飛び込み掬い打ち:長剣の方がコツが掴みやすい.フェイント時に膝でタメを作っておくとスムーズに飛び込みに繋げられる.

3. 対策:飛び込み打ちはスカして叩け

飛び込み打ちは外した後背を向けた状態になり,隙が大きい.予備動作の間にバックステップしておけば相手の飛び込みをスカすことができる(打つ側は一度予備動作すると飛び込み打ちを止めることは難しい).

<やってみよう> 相手の飛び込みをバックステップでスカす→扇面で反撃 (注)バックステップでスカすのが難しい場合はわざと空振ってもらうのもあり

例その2:足打ちに対する回避行動について

<目的>足打ちに対する回避行動を使えるように,また対策できるようになろう.

1. 基本:回避行動だけで少なくとも4項目ある

回避行動は筆者が考える限り以下に示す4項目(①ドッヂング②防御③足退き面④出技)に分類できる.下にある項目ほどハイリスクハイリターンである.この2年3年はハイリスクハイリターンの選択肢をコンパクトに打つことがトレンド

項目 概要 ポイント 備考
①ドッヂング 足打ちが当たらない距離まで逃げる. 自分・相手間の距離を正確に把握するに尽きる. 回避行動であると認識していない人も多い.
②防御 剣で足打ちを受ける. 剣は足打ちの軌道に対して垂直に出す. 反撃に移るためには近くで足打ちを受ける必要がある.
③足退き面 足打ちを回避した後面打ちで迎撃する. 足を退く際,上段は四方囲いでケアする.前足は後ろ足以上に退かない. 回避する際重心が少なからず上昇.迎撃にはゾーンで当てられる回し打ちが親和性高い.
④出技 足打ちの打ち始めに面・小手を挟む. 前足は後ろ足以上に退かない. 腕の付け根(肩)を狙うと外れにくい.

<やってみよう>

③足退き面&④出技:まずはゆっくり打ってもらうと良い.反撃が当て易い場所・タイミング等を体感してもらうことが大切.

2. 応用:回避行動のケーススタディ

回避行動の応用例を下表に示す.④出技は汎用性が高い.

項目 適用可能なケース 備考
①ドッヂング 足打ち空振り後相手との距離を詰めて優位な状況を作る. バックステップ不要な距離で相手が足打ちを打ってきたときの選択肢である.
②防御 距離を詰めて出足を誘発して防御し反撃する. 反撃に移るためには近くで足打ちを受ける必要がある.
③足退き面 (なし:シンプルな回避行動であるため) ②防御と同様,距離を詰めて出足を誘発することも可能.
④出技 連係(回し打ち→回し打ち,面フェイント足等) ②防御と同様,距離を詰めて出足を誘発することも可能.

<やってみよう> ②防御:距離を詰める→相手に出足(しゃがみ足が良い)を打ってもらう→誘発して防御し反撃する,という流れでやってみる.③足退き面もしくは④出技で代用可.

3. 対策:回避行動も万能ではない

回避行動も万能ではなく,対策可能である(下表参照).

項目 弱点 対策 備考
①ドッヂング ドッヂングそのものでは状況優位を作れない.自分・相手間の距離を正確に把握していないと回避しきれない. (自分・相手間の距離を正確に把握していない相手の場合)射程距離誤認識を図るため,後ろ足を詰めた上で足打ちを打つ. そもそも状況を五分五分にする行動であるため対策するものとは一線を画すかも.
②防御 足等が止まり,居付きが生じる. 居付きに応じて2ターン目の行動をとる.再度詰めてから上段を打つ,下段上段の順に連打する,足打ちフェイント突き等. 2ターン目の行動をとるために足打ちは先端をガードさせることがミソ.
③足退き面 面の軌道がバリエーションに乏しいため単体の防御は比較的容易.回避行動時胴がガラ空きになる. 防御した上で反撃する.回避行動時に掬い胴・胴突きを合わせる. 空振り後の隙も狙えるが④出技と比べると小さい.
④出技 空振りすると隙が生じる.打つ前に前のめりになる(場合が多い). スカした上で反撃する.出技の予備動作に合わせて前に出た小手を打つ 防御する手もあるがピンポイントで軌道予測するのは簡単ではない.

<やってみよう>

  • ②防御:下段を防御させた上で上段を打つ(連打).長剣でやる方が感覚が掴みやすいと考えられる.

  • ③足退き面:足打ちフェイント→足退き面を誘発→ガードしてから反撃.回し打ちの面を打ってもらう.小太刀の方が感覚が掴みやすい.

以上