SASSEN(サッセン)体験:スポーツチャンバラと比較してみた

2020/01/12 に A-LABO@秋葉原で開催された SASSEN(サッセン)体験会に後輩(下の写真,掲載許可貰ってます)が参加すると聞き,Web記事,Twitter 等の情報で以前から興味があった筆者は,便乗する形で参加することにした.

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A-LABO@秋葉原と後輩

情報を見る限り,SASSEN はスポーツチャンバラライクな競技である印象がある.今回は筆者の所感を交えつつ,スポーツチャンバラと比較しながらサッセンを紹介してみようと思う1

SASSEN で使用する道具

SASSEN では SASSEN 棒,及び当たった/当たらないを判定するアプリを使用する.

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SASSEN で使用する道具を用いたルール説明の一幕

SASSEN 棒

全長は 45 cm であり,スポーツチャンバラの最もポピュラーな得物である小太刀(60 cm)と比較して一回り小さい.2また小太刀と異なり柄はない(写真).ちなみに SASSEN 棒は当たっても全然痛くない3が,空気を入れた小太刀より重い.

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SASSEN 棒とエアーソフト剣(小太刀):並べて比較

中身は発泡スチロール.棒の先端1箇所に圧力センサが取り付けられている(写真).

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SASSEN 棒の中身(その1)

発泡スチロールの中は空洞になっている.センサを駆動させるためのモバイルバッテリを格納するためのスペースとして機能している(写真).

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SASSEN 棒の中身(その2)

体験会冒頭では発泡スチロールのみの棒で相手に当てる,という体験をした.中身スカスカですぐに壊れるのではないか,と考え(これでもか,というくらいに)思いっきり相手に当ててみたが変形等は確認されなかった.発泡スチロールすげー. そして発泡スチロールだけであればコストは相当安いはずであるので,競技者や運営側が非常にスペアを用意しやすい.これはとても素晴らしいことである. 一方で,圧力センサを駆動させるためバッテリーを付加した途端に重量が途端に重たくなるのは残念な部分(仕方ないのではあるが).その意味では空気と簡素な部品だけで構成されたエアーソフト剣の良さを考えさせられた機会でもあった.

当たり判定アプリ

圧力センサの電圧があるしきい値を超えた場合に当たりと判定され,当てた方に1ポイント加算される,というもの.突きが当たった場合でも当たりと判定される.

  • 当たり判定は全て圧力センサの判定は全てであるので,スポチャン基準で会心の一撃(=大きい音が発生する場合)であったとしても圧力センサに触れてなければ当たり判定は出ない.
  • 尚,センサに大きな圧力が加わると復元まで当たり判定が出続けるため,誤動作が発生するとのこと.体験会でも誤動作を修正する場面が3,4回見受けられた.
    • ポイント加算でゲーム進行が止まる(後述)ことを考えれば,リセットボタンを押すまで残り全ての当たり判定を無視するような機能を実装されると良さそう.
  • お互いの当たり判定の差が 0.025 秒以内の場合相打ちと判定され,ポイントは加算されない4

SASSEN ルール(2020/01/12 体験時)

以下に SASSEN ルールを掲載するが,新興スポーツということもありルールは暫定的な色合いが強い.現に筆者が試合後に新ルールを提案したところ,早速(試験的に)導入され,サッセンの歴史を変えてしまった…(後述)

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SASSEN 試合時の様子

  • 5 m 四方の空間(上の写真のポール5の内側)で競技は実施される
    • スポーツチャンバラでは 7 m 四方…のはず.尚,片足が完全に出ると場外判定(スポーツチャンバラは両足)となることもあり,スポーツチャンバラ経験者からすると相当狭く感じる.
  • 2 本先取で実施される(スポーツチャンバラ決勝戦と同じ).
  • 時間は1セットあたり30秒(スポーツチャンバラでは,2本先取の場合全体で3分)
    • ポイントがいずれかに加算された時点でセットが終了,時間がリセットされる.
    • 1セットで双方にポイントが入らなかった場合,1−0では試合終了,同点の場合は時間無制限のサドンデスとなる.
  • 1セットで振れる回数(打数)は5回と制限されている. SASSEN を SASSEN たらしめる特徴的なルール.(当たり前かもしれないが)スポーツチャンバラに打数制限はない.
    • 打数は人間が現時点では人間がカウントしているが,現在ジャイロ導入で打数判定できないか検討しているとのこと.
    • 打数0の状態で振ってしまうと相手に1ポイント加算される.
  • 顔面への打突は危険であるという理由で無効. 現在は顔面打突を有効にするための道具等検討を進めているとのこと.ただし用意する道具を限りなく減らしたい思惑もあり困っているのだとか.
  • SASSEN 棒で防御して当たり判定が生じた場合ポイントは加算されない.
    • SASSEN 棒で防御した/しないは現在自己申告制.ここはある種スポーツチャンバラと変わらない.しかし現在防御の判定もアプリ上で実現するよう実装中とのこと.
  • SASSEN 棒を落としたり場外に出たりするとゲーム進行が止まり,使える打数が1引かれた上で試合が再開される.

試合をしてみた所感

体験前の予想通りスポーツチャンバラ経験者は技術を SASSEN にも適用可能な印象であった.とはいえ用具及びルールの違いの影響は結構大きく,以下の所感を持った.

  • 打数制限を設けることで駆け引きが生じる.
    • 打数を消費してポイントを取りにいく,相手が打数を消費してから攻めに転じる,前への圧力をかけて相手の空振り・場外を誘い相手の打数を奪う,等々制限があるからこその駆け引き・戦略が生まれる.個人的には非常に面白かった.
    • ただし場外に出ても引かれる打数が1であるため,現時点ではゲームバランスが非常に悪い.というのも,最初の1ポイントさえ先行してしまえば,次のセットではひたすら場外に出る戦略を取れば良い.30秒で5回場外6に出られたら攻める側はたまったものではない.
      • 筆者,上記を踏まえて場外に出た場合に引かれる打数を3に増やすことを提案したところ,新ルールとして採用されてしまった(!)
    • 個人的には,打数制限を選手ごとに適当に変えてハンディキャップマッチをするのも楽しいかな,と感じた.
  • スポーツチャンバラと比較して接近戦が難しい.
    • 圧力センサは軽く触れただけでも反応する.そのため接近して「ゴチャらせる」前にポイントが入る7.また防御してからの反撃も圧力センサに触れるとゲーム進行が止まるため相当難しい.
  • スポーツチャンバラで時折見受けられる摩訶不思議な打ちは出づらい.
    • 攻撃の有効な部分が圧力センサの1箇所だけであること,SASSEN 棒がエアーソフト剣と異なりしなり具合を制御できないことが大きな要因.

むすび

当該体験会を通して,SASSEN はコスト及び判定の客観性という観点から「合理的」な道具を使用し,打数制限という一種の「不合理」なルールを与えることで駆け引きを生むスポーツであるということが分かった.新興スポーツであることもあり,ルールに改善の余地はあるものの,非常に面白い印象を受けた.SASSEN は(特にスポーツチャンバラ経験者に対して)体験をおすすめできるスポーツであると言える.

一方で SASSEN は合理性を求めた結果,道具の構造や攻撃方法に対して制限がかかり,競技の自由度が低くなっている部分は否めない8.競技の自由度という点では小太刀だけではなく種々の得物が存在し,様々な軌道から攻撃を出すことが可能であるスポーツチャンバラは非常に優秀である.結果として,当該体験会はスポーツチャンバラの良さを再認識する機会ともなった.


  1. 比較する理由は筆者がスポチャンフリークであるから,の一言に尽きる.

  2. 短刀と同程度の長さである.

  3. 小太刀が痛いと感じるくらいのレベルで SASSEN 棒は痛くない.筆者驚愕.

  4. この基準はフェンシングの 0.1 秒と比較してもシビアである.想像するに難くなく滅多に発生しないとのこと(体験会時は奇跡的に2回発生していたが).

  5. 実は SASSEN 棒に使用されている発泡スチロールである.とことんエコで合理的.

  6. スポーツチャンバラでは2回場外反則で1本(1ポイント).1本先取のルールでは時間は1分であることを踏まえればとんでもないルールであることをスポーツチャンバラ関係者はご理解いただけるかと.

  7. 得意戦法,通用せず…無念.

  8. ただ筆者としては(工学畑の人間であることもあり)どんどん合理性を追究してほしいという思いは強い.