わかりやすい電波と情報伝送1の読書メモ.書店で偶然発見したものである.電磁波の記述について,今まで読んだものとは別視点の記述があり,購入を決定.
結果
以下2点が分かった.
<その1> 以下の方程式を基本式とすると理解しやすい.ただし$\boldsymbol{E}, \boldsymbol{D}, \boldsymbol{H}, \boldsymbol{B}$ はそれぞれ電場ベクトル,電束密度ベクトル,磁場ベクトル,磁束密度ベクトルである.
- $\boldsymbol{H} = \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{D}$:電束線が移動すると磁場が生じる(§6.3.2, P. 177).ここで $\boldsymbol{v}$ は電束線の移動速度である.
- $\boldsymbol{E} = -\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$:磁束線が移動すると電場が生じる(§6.3.3, P. 179).ここで $\boldsymbol{v}$ は磁束線の移動速度である. 上記の式は Coulomb 力と Lorentz 力から導出される.同式は以下に示すように,電磁波の速度及び電波インピーダンス(電場強度と磁場強度の比)導出に適用可能である.
(導出) 上式スカラ演算から $$H = vD, E = vB$$ が成立,ここで誘電率,透磁率をそれぞれ $\varepsilon, \mu$ とおくと $$D = \varepsilon E, B = \mu H$$ がそれぞれ成立.したがって電磁波の速さ $v(>0)$ について以下のように求められる.
また,電波インピーダンスを $\eta$ とすれば,$H = v \varepsilon E$ より, $$\eta = \frac{E}{H} = \frac{1}{v \varepsilon} = \frac{1}{\varepsilon} \sqrt{\varepsilon \mu} = \sqrt{\frac{\varepsilon}{\mu}}$$ と求められる.
<その2> 電磁波は交流回路の理論からも導出可能である(§7.4, cf. 「電信方程式」). 実は電気回路から電磁波を理解するルートもあるのかもしれない.また,電磁波の挙動を記述するにあたって,究極的には抵抗,コイル,コンデンサ(それぞれ $R, L, C$)だけで上手にできるのかもしれない2.
その他気になった部分
- 質量を持つ物体は光速では運動できないらしい(P.16). 物体について,静止しているときの質量を $m_0$,速さ $v$ で運動しているときの質量を $m$ とすれば,特殊相対性理論から以下が成立するらしい($c$ は光速).
この時著者の説明では
のため上記の主張が成立するとあるが,個人的には式変形して
より,等号($v = c$)成立は $m_0 = 0$,すなわち物体に質量が無い場合に限ることを示した方が分かりやすい気がする.
- ヘビサイド3演算子による微分方程式の解法を非難された時の反論(P.109)
「あなた方は消化のメカニズムを理解してから食事をとるのですか」4
面白い視点.うまくいく方法からメカニズムを理解するというアプローチもあり.
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後藤尚久, “わかりやすい電波と情報伝送,” オーム社, 2009.↩
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$R, L, C$ からなる回路は基本振幅の変化及び位相の変化に注目する.電圧の時間変化を $V(t)$ とおけば,一般に(複素)振幅 $A(t)$ と位相 $\theta(t)$ を用いて $V(t) = A(t) \exp {\mathrm{j}\theta(t)}\,\,(\mathrm{j=\sqrt{-1}})$ と記述される.この記法は電磁波の挙動を記述する際も同じ(今更な事実ではあるが…).やっぱり一つの分野を極めたら応用は色々効くので強いんじゃなかろうか. ↩
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イギリスの電気技師・物理学者.電離層を発見したことでも知られる.↩
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原文は以下:Why should I refuse a good dinner simply because I don’t understand the digestive processes involved?↩